滑舌

母音と子音

歌がうまいということは、ただ「いい声」が出る、大きい声がでるだけではありません。
リズムを感じることができ、言葉がしっかりと届き、そこに表現力をプラスできることがとても重要です。

言葉をしっかり伝えるために、母音と子音の役割を理解することがとても重要になってきます。

滑舌図

 

例として、か行とさ行を見てみます。
赤文字が子音、青文字が母音です。

母音「あいうえお」に各子音が変わることで、「かきくけこ」や、「さしすせそ」に変わっていきます。
歌の中で、メロディとして聞き取っているのは母音の部分です。
声質の良さや響きの良さというのは、母音を発声した際に現れます。

子音は、母音の前につく「声にならない音」です。
この声にならない音をどのように立てていくかが、滑舌の良さに綿密に関わってきます。

日本語は、とても母音の多い言語です。

たとえば「机」という言葉ひとつとっても、日本語で「つくえ」と発音しようとすると母音が3つもでてきます。

母音と子音図

 

一方英語でDESKは母音が1つで済みます。

歌の響きや声の良さは母音の質で決まるのですから、実は英語の方が、発声の良し悪しに左右されにくいという考え方もできます。
逆に、英語の曲は子音がとても多いので、子音がしっかりリズムよく刻まれることが重要となり、リズム感に関しては大変シビアです。

じゃぁ英語の曲から練習しよう!と思う方もいるかもしれませんが、例えばこのDeskをDESUKUと発音してしまっていては意味がありません。
日本で耳にする英語の発音は、とても「日本語英語」的で、子音と母音がセットに音になってしまっていることが多いので、練習に取り入れる場合、英語の発音には十分注意が必要です。

言葉のイントネーション

滑舌から一歩踏み込んで、歌う際に意識したい部分があります。
言葉やフレーズのイントネーション」です。
このイントネーションを全く無視してしまうと、はっきり発音しているつもりなのに、なぜか伝わりづらい、伴奏に埋もれやすい歌になってしまうことがあります。

滑舌で子音が大切だという話はしましたが、単語ひとつひとつの中には、一番強調されている音があります。
日本語ではあまり馴染みがないかもしれませんが、アクセントと言われるものです。

メロディラインがどのようなラインを描いていても、言葉を大切にしっかり大切に歌い上げることは、すなわち「言葉を大切に歌う=感情がこもって聞こえる」ということにつながっていきます。

「もっと感情を込めよう!」とすればするほど「ひとりよがり」になりやすいものです。
感情は「込める」のではなく、「込もって聞こえるように、込もって見えるように計算する」と思っておくと丁度いいかもしれません。

自分自身は感情的にならず、冷静に歌声を制御していきます。
表現力とは、自己満足ではないその計算が作るものです。

表現力というと、「ビブラート」や、「しゃくり」というテクニックを連想する方が多いかもしれません。
それらは声帯の技術であって、声帯のコントロールがうまくないうちにそれだけ上達できるものではありません。

イントネーションの意識は、声帯のコントロールとはまた別の部分です。
まだ理想的な発声が難しいタイミングでも、練習をすれば意識することができます。
これが歌の完成度にとても効果的で、なおかつ見逃されやすい項目です。

曲中によく出てくる「あなた」で例をあげてみたいと思います。

イントネーション図

 

何度か発音してみてください。
 なた」でも「あな 」でもなく、「あ  た」だと思います。

言葉として発音するときは自然と「あた」と発音していますが、曲になった途端、メロディに惑わされて、音の高いところについ重心がいってしまいがちです。
その結果、このイントネーションがめちゃくちゃになって、歌詞が聞き手に響かない原因になるのです。
そもそも喋っている時さえ、このイントネーションが埋もれて一本調子にぼそぼそ、なんてこともあるかもしれません。
歌ではメロディが乗りますので、その「ぼそぼそ」の発音では聞き手に伝わりません。

歌いたい曲をぜひ、「朗読」してみてください。
やはり、小声でぼそぼそではあまり意味がありません。大きめの声で、劇団員さんのように大げさに抑揚をつけて朗読します。
歌うときにもそれを意識できるようになれば、歌はより伝わるものになります。

しかし曲の中では、このイントネーションを表現しにくい場所が多々あります。
同じ「あなた」という言葉でも、メロディのはまり方によっては、いつも以上に大切に言わなくてはいけない場面が出てきます。

メロディとイントネーション図

 

♪の高さは音の高さだと思ってください。
図①では、「あなた」の本来持つアクセントと、メロディの一番高い音が揃って「な」に来ています。
こういった場合は、先ほどの朗読のイメージで十分、伝わる歌いまわしになります。

しかし図②では、「な」の音は低くなっています。
とくに、「な」のあとの「た」が高音だった場合、「た」に備えたいという気持ちから、「な」の音をないがしろにしてしまいがちです。。
この「本当は大切なのにメロディに惑わされて埋もれている音」「そんなに大切じゃないのに高音だから目立ってしまっている音」をしっかり意識して、コントロールしていくことが、聞き手に響く歌への第一歩です。

曲の中でこのような場面は多く出てきますが、この意識が癖づくと、だんだんと自然に「ここは大切に言わないと埋もれるな」と気づけるようになってきます。

耳によく残るキャッチーな曲ほど、サビの重要な所で図②のようなことはあまりありません。
作詞家、作曲家というのは、このような所まで計算して曲を作っています。

 |補足| 耳障りを逆手にとるテクニック
本来、言葉のイントネーションとメロディーの抑揚が揃っていると、曲としてとても整理されていると言われることが多いのですが、中には、これをあえて外した曲も存在しています。
言葉のイントネーションと大きく違ったメロディーを当てはめることで、聞き手に「耳障り」な印象を残し、その曲に対する印象を強く残させる効果があります。
イントネーションだけでなく、濁音の使い方、単語の途中の不自然なブレスなど、様々な方法でこの「耳障りテクニック」が使われています。
ぜひお気に入りの曲で探してみてください。

もしあなたが作詞作曲をする方であれば、この日本語のイントネーションは、歌唱時だけではなくその製作時にも意識すると、とても歌いやすい曲にすることができます。

 

ういろう売りを読もう

ういろう売りという名前を聞いたことはあるでしょうか。
演劇部に入っていた、という方は、聞き覚えがあるかもしれません。

これは歌だけではなく、アナウンサーや声優を目指す人達も使う、早口言葉を含んだ滑舌テキストです。
古い言葉の言い回しも目立ちますので、簡単にストーリーをご説明します。

「ういろう」という薬を売る商人がいて、その薬は万病に効く、それに加えて不思議なほど舌が回るようになる薬だと、宣伝文句から早口言葉を始めます。
そして最後には、「ほらすごいでしょ、買いませんか」というお話です。

ここにそのテキストをあげておきますので、ぜひ印刷して声に出してみてください。

ういろう売りテキスト

中盤に差し掛かると、今にも舌を噛みそうな言葉がたくさん出てきます。
早口で言える必要はありません。日本語の抑揚、アクセントをしっかり意識し、子音が埋もれないように注意しながら読みます。

携帯などのボイスレコーダーで、自分の読み上げたものを録音してみます。
後から聞いた時に、舌の回っていないところ、言葉が埋もれているところを拾っていきます。

この「録って聴く」ことは、歌にもとても効果的です。
自分の歌を客観視でき、自分で聞こえている声と、実際に周りの人に聞こえている声の差に慣れることもできます。

「自分の声を録ると別人のようで気持ちが悪いから」「きらいな声だから」という理由で「聞きたくない」という方も少なくありません。
しかしどんなに自分で聞かないようにしても、人には現状その声で聞こえています。
否定して「見て見ぬふり」をしても、実は意味のないことです。

もし歌手を目指している人ならなおのこと、まず自分の声をしっかり受け止めることが大切です。

自分の歌声を聴くことにどうしても抵抗のある人は、まずこの「ういろう売り」の読み上げから始めてみてはどうでしょうか。

 

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